今年一年を振り返る〜「性癖を矯正すれば犯罪は減るの?」
テレビをつけてみると、今年一年を振り返る番組がたくさん放送される時期になりました。
その中で、「秋葉原」が取り上げられています。
「電車男」や「メイドカフェ」に加え、「ヨドバシカメラ」と「つくばエクスプレス」
秋葉原は、今年最も変貌を遂げた街と言えると思います。
「今年はクリスマスもお正月もあったもんじゃない!」という決意を抱いている私ですが、今年の1月にこの「Grip Blog」をスタートした直後、秋葉原で取材をしたことを思い出しています。
私にとっても今年は今まで経験したことがないことをいっぱい経験させていただいた特別な年。その記念すべき年が終わりを告げる残り1週間、今年の取材を振り返ってみます。
1回目は、はじめての取材だった「性癖を矯正すれば犯罪は減るの?」を振り返ります。
冒頭でも書いたように、秋葉原の街はこの1年の間に大きく変わり、今ではオタクだけではなく若い女性たちも集まり始めていると聞いています。今年の初めに取材した時の私は、秋葉原のコアなゾーンから疎外されてひどく凹みましたが、もしかすると、今なら少しは受け入れられるのかもしれません。
秋葉原が変わっていく中、性犯罪問題の処遇はどのように変わっているのでしょうか。
おそらく、奈良女子殺人事件がきっかけだったのだろうと思いますが、今年3月、警察庁は「子ども対象・暴力的性犯罪の再犯防止対策について」(PDF)という広報資料を出しています。
その中で子どもを対象とした暴力的性犯罪が、子ども被害性犯罪の経歴者によって引き起こされる可能性が極めて高いと書かれており、再犯性の高さを物語っています。
その調査結果から警察庁が出した防止策として、犯罪の前歴者について法務省から出所情報の提供を受け、出所後の動向等を踏まえ、転居先の確認に努めるというもの。また、子どもに対して声かけ・つきまとい等があった場合は、行為者を特定するために保有している情報を活用するとあります。
これは、アメリカや一部の国が行っている「ミーガン法」に近いもので、私が取材をしていた頃も、ネット上でその賛否が議論されていました。
私は、問題の根本は、罪を犯す可能性のある者の所在情報を得ることではないと考えています。
子どもに対する声かけがあった時に「警告」などで犯罪を阻止するだけでなく、その根本にある原因を考え対処することが性犯罪の再犯率を低くすることにつながるのだと思っています。
取材を通して私が出した結論は、ロリコンと言われる性癖を矯正することはできないというものでした。他人のイマジメーションを停止させる権利は誰にもないと。
それはあくまでも個人の嗜好の範囲内のことで、自己抑制できず犯罪へと結びついた時、その精神状態を正常だと見ることはできません。
法務省の「性犯罪者処遇プログラム研究会」(PDF)で、帝塚山学院大学人間文学部教授・小田 晋氏は、「精神障害の範疇に属しているので治療が必要である」と述べています。また、こころの相談室「リカバリー」代表・吉岡 隆氏は、「性的問題行動には、犯罪の側面と病気の側面があり、その病気とは『依存症(嗜癖)』である」と言っています。
その研究会では、8名の構成員が5回に亘り集まり策定に取り組んでいて、来年そのプログラムが実施されます。
自分の性癖を異常だと自覚している人はたくさんいるでしょう。
でも、自分の持つ性癖が、精神障害の範疇にあると認めるのは、大変難しいことだと思います。
この法務省プログラムにある今後の課題の中に「欧米諸国における使用薬剤と専門家意見のばらつき」とあります。おそらく、各国ともまだ手探り状態で進められているのだと思います。法務省が出すプログラムの概要の中にも、性犯罪者のことを『患者』とは表現していないことからも、そのことが伺えます。
性犯罪を繰り返してしまう行為が病気であるとしたら、差別せずにその行為自体が病気であると理解し社会が認知しない限りは、病気の治療を進めることは困難でしょう。
秋葉原が大きく変貌し、見方によってはオタクが市民権を得られたとも取れる今年、昨年起きた奈良の小1女児殺人事件をきっかけに、今年一年で性犯罪に対する動きは、大きな一歩を踏み出したと思います。
犯罪が多様化する現代社会の中で、犯罪者だと決め付けるのではなく、心の病気かどうかを見極め治療をすることが不可欠となってきていると感じています。ただ拘束したり、情報を管理するだけでいいのかという疑問を持っていた私は、来年からはじまるプログラムに期待をし注目しています。
<文責/泉 あい>
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コメント
泉さん、TBへの回答ありがとうございました。遅くなりましたが、お返事させていただきました。よいお年を。
投稿: harmoniker | 2005年12月31日 (土) 15時07分
期待して読み始めたトピックだっただけに、正直少しがっかりしました。
私は、泉さんは社会の性犯罪を繰り返す人への認識を改めることが必要だという主張、そして治療プログラムの行方について興味があると受け取りました。
もし、これが正しいとすると、以前の「オカマさん」の話が何のために出てきたのか分からなくなります。(個人的にはオカマとゲイはしっかり使い分けるべきだと思いますが。)
以前の内容だとロリコンの誰かが「こんなにも努力したんですけど、解決しないんです」と言い出すことを提言していたようですけど、結局ロリコン側に責任はないのでしょうか?私はそういうことを言い出す人が出てくれば(全員ではなく)状況が変わると言う考えこそ無責任だと思います。
もちろん、その場その場で感じたことを書いていくことにも意味があるでしょう。でも、今回の記事を一連の特集としてみた場合にあまりに整合性が取れないと感じてしまいました。いかがでしょうか?
投稿: best-record | 2006年1月 3日 (火) 03時02分
best-record さん
私はロリコンという趣味の人にも、社会人として誰もが持っているような責任が同じようにあると思っています。
私が取材したオカマさんたちもそう言っていたと解釈しています。
ただ、ロリコン=性犯罪者ではないと思いますので、分けて考える必要があると思います。
性犯罪者の治療のプログラムは、罪を償いながら行われるのだと認識しています。(それで罪に対する責任が完全に取れたことになるとは思いませんが)
>私はそういうことを言い出す人が出てくれば(全員ではなく)状況が変わると言う考えこそ無責任だと思います。
状況が変わるとは思っていません。でも、一歩踏み出さないと何も変わらないということは言えるし、だから取材をして模索をしているんです。
投稿: ぁぃ | 2006年1月 4日 (水) 18時20分
お返事ありがとうございました。
私はロリコン趣味の人は非常に厳しい状況にあると改めて思います。
ヘテロセクシャルで大人が好きな人は自分の思うような性欲の満たし方をして、問題になることはレイプなどを除いてありません。
ホモセクシャルで大人が好きな人は相手を探すのが非常に難しいです。
ロリコンの人は現実に自分の性欲を実現すれば、その時点で今の日本の法律では犯罪になります。写真はもちろん画像ですら問題となる場合があります。
多くの人がやっている性欲の満たし方をロリコンの人がやれば罪になる。当然のことですが、この認識を持っている人が少ない気がします。
死体性愛もあります。そうでない人は理解できず、叩くと思います。それを煽る報道が多いと感じます。
そうではなく、立ち止まらせる報道が欲しいと思うのです。
ロリコン犯罪を正当化するつもりはありません。犯罪は犯罪です。しかし、叩くだけでは不十分でしょう。
ロリコンのカミングアウトはゲイのカミングアウトより難しいと思います。なぜなら、ロリコンに犯罪のイメージがつきまとうからです。
ロリコンでカミングアウトする人が多く出てきて、説明をし、それに聞く耳を持つ人が増えれば状況は変わると私は考えます。
しかし、その土壌が今はないと思う。
まず誰かが
「苦しいですこんなにも努力したんですけど、解決しないんです」というのはもちろんゲイの人も大変ですが、
ロリコンの人はそれよりはるかに大変だと思います。
ロリコンの人が社会人として果たすべき責任など、
違法行為を起こさないことで果たされてると考えます。
そういった意味で私は先日、
「ロリコンに責任はないんでしょうか?」とお尋ねしました。
メディアこそ一般に暮らしていては分からないことを
多くの人に伝えていく責任があると思います。
投稿: best-record | 2006年1月 5日 (木) 01時20分
best-record さん
共感しながら拝見しました。
ロリコンやゲイなど、他人の欲望をとやかく言う必要は本来ないのだと思っています。
ただ、犯罪は絶対にいけないんです。
このエントリーで私が言いたいのは、犯罪を繰り返さないために、治療が必要な人もいるはずで、今まではそういう機会がなかったことが問題だったということ。
>メディアこそ一般に暮らしていては分からないことを
多くの人に伝えていく責任があると思います。
おっしゃる通りです。
ロリコンのようなデリケートな問題についてでも語ってもらえる信頼のある報道機関をどうすれば作れるのか・・・
明確な答えを今のマスコミに求めても出てこないと思うんです。
だから、ひとりひとりが意見を言い合って、自分たちの手でそういう場所を作る。
今はそういう時だと思います。
投稿: ぁぃ | 2006年1月 5日 (木) 10時22分