記者クラブの表と裏 【取材記24回目/「THE TIMES」東京支局長インタビュー】
記者クラブは本当に日本独自のものなのか。先ずはその確認の質問をしていますが、聞いて良かった・・・。
かつてのイギリスには、記者クラブのようなシステムがあったというのです。
首相や大臣クラスへのアクセスには、「ロビー」と呼ばれるシステムに登録しているのが条件だったとリチャードさんは言います。
「ただ、外国人の記者でも、そこに登録していれば記者会見にはいつでも出席することができます。
ロビーというのは国会にだけあったもの。日本の記者クラブのように、各官公庁や地方の役所、各警察署にもあったということではありません。」
そこへ同じ「THE TIMES」の特派員であるレオルイスさんが、証券取引所にもロビーがあったと話してくださいました。
「1987年に廃止されましたけれど、ロンドンの証券取引所にも記者クラブのようなものが存在していました。
廃止された理由は、証券取引所の規制緩和の一環として、誰でもがアクセスできるようにするためです。
証券取引所のロビーも、外国人の特派員やジャーナリストが、そのクラブへアクセスできないということはなかった。
とは言え、例えば1社からひとりしか登録できないなどの規制がありました。この規制緩和で、より多くの人がアクセスできるようになったという状況があったようです。」
リチャードさんは、
「この2年間で、日本の記者クラブのようなシステムは何もなくなったということだけは言えます。現在は、日本の記者クラブのように、メンバーかメンバーでないかという枠組みでの差別は全くないです。
例えばイギリス国内で、ある大臣に取材を申し込もうと考えた時に、申し込んだ人がクラブの人間であるかないかは、全く判断基準にはならない。
大臣自身が、この人には興味がないからお断りすることはあるかもしれませんけれど、その人がある特定の記者クラブのメンバーであるかどうかということは、全く関係がないということです。」
記者クラブがないなら、どうやって情報を手に入れることができるのでしょう。
「例えば記者会見に行きたかったら、広報課など担当しているところへコンタクトをして、出席したいと言えばいいだけの話。その時『お宅は媒体としては小さすぎてちょっと遠慮してください』と言われることはあるかもしれませんけど、事前登録が必要だということはないです。
記者会見の案内は、メールやFAX、インターネットで知ることができます。
案内をもらうために、最初に相手に対して、自分はこうことに興味があると伝えておくことは必要ですよね。自分が興味を持っていたとしても、興味を持っているジャーナリスト全てにインフォメーションが行き渡るわけではないですから、自分の方から働きかけることが重要になります。
それ以外の方法はないと思います」
そこで危惧するのは、当局のジャーナリストの選別です。
当局が取材するジャーナリストを選ぶことができるシステムなら、自分にとって都合の良い記事を書くかどうかが基準になりはしないかということです。
「もちろんそれはあります。権力があればあるほど、そういった傾向はもちろんあります。
でもそれは記者クラブシステムの中でも起こり得るものではないでしょうか。
記者クラブシステムの問題というのは、非常に情報源に近い人たちだけに情報を限っているということ。それから、権力者の思い通りに書いてもらえる人達に情報を限っているということが問題だと思います。
当然記者クラブの存在意義について、俗に言われているのは、情報を効率的に伝達するための手段だと。
私はそうだとは思っておりません。記者クラブが存在する意味というのは、一部の選別された記者にだけに限られた情報を与えるという、情報を出す側が操作できるということではないかと思います。
記者クラブというものは、ある意味では情報を殺してしまいかねない。生きた状態での情報が伝わらない。それから記者たちの発想の豊かさを制限してしまうという性格があると思います。」
確かに、記者クラブが閉鎖的であれば、当局がジャーナリストを選別しているのと、何ら変わらないのかもしれません。
更に、記者クラブが存在していることについてのデメリットをリチャードさんは語ります。
「日本の記者クラブというのがどうして問題かと言うと、ある意味公的な制限を持っている機関で、そこに参加するべき資格を持った記者を排除している機関である。それがいちばんの問題であると思います。
当然、最も望むべき理想は、然るべきジャーナリストとしての資格を持った人全てに対してオープンである場。
しかし、時にはそのスペースの関係上、人数制限が出るのは仕方がないと思います。
私は、記者クラブの存在自体に反対しているわけではなくて、私自身は、記者クラブにいる人たちと同様な資格を持っていると思うのに、情報へのアクセスを排除されているというところが問題だと思います。
一般的に見ても、記者クラブの利益は何もないと思うんですよね。記者クラブの利益は、メンバーだけのものです。
でも、私の目から見ると、メンバーである記者にとっても、利益ではなく逆に不利益なのではないかと思います。記者クラブに属しているってだけで非常に自分たちが怠惰になって情報の入手も遅くなる。」
厳しい意見です。
先日のオランダ人特派員の時もそうでしたが、どうも外国人特派員の目には、日本の記者クラブに所属する記者たちのことがあまりよく写っていないようです。
そして、日本の省庁に対しては、オープンになってきているとうれしい言葉も聞かれました。
「省庁側から見れば、制限された人だけに情報を与えて、それをよしとしているわけですが、長い目で見れば利益には繋がっていない。
一般の人々も、透明性に欠けるということを長い期間において気付いてくると思いますし、決して得策ではないと思われます。
残念ながらいくつかの省庁については、まだそれがなされていませんが、ここ数年は外国人記者に対して、外務省も大蔵省も、官邸もそれから検察庁も非常にオープンになってきました。
なぜ、それらの各省庁が外国人記者クラブに対してオープンにしてきたかと考えますと、それは彼らが透明性をもって情報の流通を自由にすることによって、彼ら自身も得るものが大きいと判断できたという証拠ではないでしょうか。」
では、記者クラブ制度のないイギリスの報道でのデメリットは何でしょうか。
リチャードさんは、
「ない」
と言い、続けて記者クラブの弊害を更に語りました。
「記者クラブの存在で非常に問題な点は、そこにいる記者達が良い情報を得ようと努力することではなくて、記者クラブに居ることで自分が記者クラブから放り出されないように保身に走ってしまう事。それが問題。
当然、権力者の側では自分に有益な記者達を選別しようとしているわけです。で、記者クラブ制度というのはそれをお盆の上に一盛りにして提供しているようなものなんです。」
お盆に一盛りとは上手い表現です。
記者クラブのある日本と、ないイギリス。海外報道に限らず、報道の仕方として決定的に違うことは何でしょうという大きな質問をしてみました。
「一般論、総論として申し上げます。
大きな違いとして言えることは、イギリス人のジャーナリストにとっての喜びは、権力者が隠しておきたい、或いは外に出したくないと思っている情報を暴露して、権力者の側を驚かせて恥をかかせる。このことがイギリス人ジャーナリストにとって最も輝かしい業績になります。
日本人のジャーナリストはそういうことをしたら、それはもう悪夢でしかない。
多分そこが大きな違い。
これは、あくまで一般論なので、当然日本人ジャーナリストの中にも同じような志をもって非常にいい仕事をしているジャーナリストを私は知っていますし、イギリス人のジャーナリストの中にも非常に怠惰なジャーナリストもいます。
でも一般的に言って、そうゆう状況がうかがえると言うことです。」
『悪夢』という表現にうなだれてしまいそうになりました。
今までの取材でも、政治家や官僚の悪事を暴くと出世が阻まれるという話が出ています。「それは逆でしょう」と納得いかないところ。
リチャードさんは、日本の中でも閉鎖的だと言われる警察の記者クラブの例を挙げました。
「例えば、一人の日本人ジャーナリストが警察がらみの情報を得て、他のジャーナリストを抜く形で記事を掲載したとすると、それが記者クラブにいる記者達から次回何かのインフォメーションがある時に彼が排除されることがあるんではないか。」
実際にそのような話も過去の取材で出ています。
知っていても書けないことがある日本の記者クラブ。それをイギリス人特派員は、
「それは確かにあるようで、日本人の記者達は書いている事以上に知っているという状況があるので、私達は時々そうゆう人達から情報をもらっています。
日本人の記者からすれば、私達なら書いてくれるので情報をあげましょうということです。」
絶句!
外国人の目から見た記者クラブの印象ってこんなにひどいのか・・・。しかも利用されている。
記者クラブにサムライはいないのか・・・。
<文責/泉 あい>
GripForum - 記者クラブの表と裏スレッド
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コメント
記者クラブにもサムライはいると思います。いや、多くはサムライだと思います。しかし、問題は、「そのサムライが組織に属し、組織の論理を優先させる」ということです。官僚が国益でなく省益を優先させるのと同じです。そして、それこそが、官僚不信と同様に、マスコミ不信の原因となっていると思います。
投稿: バイス | 2005年9月 2日 (金) 01時43分
随分とまたステレオタイプですな・・・日本の記者も権力の秘密を暴露したら出世するでしょうに。
投稿: | 2005年9月 2日 (金) 13時25分
>日本の記者も権力の秘密を暴露したら出世するでしょうに
それはないでしょ
NHK朝日問題でもしかり、手法云々は置いといて、巨大な権力の本当にやばい情報を書くと徹底的に攻撃うけるのは沢山の事例があります。
ちょっとした女性スキャンダルのレベルを言ってるわけじゃないでしょう
投稿: chie | 2005年9月 2日 (金) 13時33分
↑追記
当然、記者クラブ組織に所属する大手マスコミのサラリーマン記者についての話です。
雑誌などに寄稿するフリーランスなどはその限りじゃありません。
現に過去に大きな権力の裏をすっぱ抜いてきたのは雑誌やフリーランスです。
投稿: chie | 2005年9月 2日 (金) 13時38分
たとえば?
投稿: | 2005年9月 2日 (金) 19時12分
どっちのたとえば?
投稿: chie | 2005年9月 2日 (金) 19時37分
田中角栄金脈汚職(週刊文春)、リクルート事件(朝日新聞)、外務省機密費流用事件(読売新聞)、防衛庁個人情報流用事件(毎日新聞)、福田官房長官年金未納事件(週刊ポスト)、橋本元首相日歯連ヤミ献金事件(読売新聞)・・・こんなところでは?
投稿: 日本のスクープ | 2005年9月 3日 (土) 00時08分
毎日新聞が協会賞を取った片山隼君の報道はスクープに値するものだと思いますけどね。巨悪の不祥事を暴くばかりがジャーナリズムじゃないですよ。
あんな地味な記事、週刊誌でもフリーランスでもまずやれないでしょう。見出しのセンセーショナリズムやタイムリーで金になる原稿にする必要がない「サラリーマン記者」だからこそできた仕事だと思いますよ。
投稿: しまうま | 2005年9月 3日 (土) 01時17分
インタビューを読んでいてひとつだけ気になったのは「検察庁もオープンになってきた」というくだり。これが東京地検のことを指してるのだとしたら、どんな風にオープンになってきたんでしょう。
まず、基本的なことを書きますと、私の知る限り、裁判の取材をメインにやる「司法クラブ」はありますが、「地検記者クラブ」はありません。出入りに必要なパスを渡すだけです。
最強の捜査機関、特捜部は定例会見をやっていますが、それにも入れてくれている、ということなんですかね。もしそうだったらかなり驚きです。おまけに特ダネを書いたら、出入り禁止も外国人の記者にやるのかな。その時は彼らはどんな風に地検を批判してくれるのかな。
投稿: しまうま | 2005年9月 3日 (土) 01時31分
「片山隼君事故キャンペーン」が、ジャーナリズムなのか?
同様のキャンペーンを、国会議員やライブドアのホリエモンがしたら、それはジャーナリズム?
投稿: バイス | 2005年9月 3日 (土) 02時20分
立派なジャーナリズムでしょう。交通事故というありふれた出来事から被害者救済という行政も市民もマスコミも見落としていた事実を見つけ出して、法改正につなげたんですから。だから新聞協会賞に値するんでしょう。
国会議員がやったらという問いは意味がよく分かりませんけど、彼らが自分の権力や金を使ってでなくて、ジャーナル(文字の力)を使ってそれを成し遂げたら、ジャーナリズムと言えるんじゃないですか。
投稿: しまうま | 2005年9月 3日 (土) 02時40分
ついでに思い出したけど、薬害エイズ事件も毎日新聞が早かった。あれ、協会賞は取れなかったんじゃなかったかな。朝日のリクルート事件が取れなかったのと並んで、かなり不思議です。
投稿: しまうま | 2005年9月 3日 (土) 02時49分