宇部商がんばれ！

甲子園がはじまり、私のふるさと山口からは宇部商が出場します。東京にいると「宇部」という言葉に敏感になり、甲子園の時期には山口の代表校がどこなのか、人知れず気にしています。
私は宇部商の卒業生ではありませんが、昔から係わりがあり、今回の出場も喜んでいます。

高校生の時、朝は宇部商の野球部の選手と同じ電車で通い、友達へ向かって
「おはよう♪」
と言っただけで、
「静かにしてください」
とよく注意されたものです。選手たちは練習が厳しかったのか、ほとんどの人たちが電車の中で熟睡していましたので、
「今日の英語のテストどうしよう」
なんて大騒ぎしている私たちのことが迷惑だったのでしょう。私の「おはよう」の声はかなり通るらしく、止めを刺していたのかもしれません。
気の強い友達は、うるさいと言われたことに腹を立てたりしていましたが、私は、宇部商野球部独特の「おはよう」の挨拶が面白くて興味津々でした。先輩が電車に乗り込んでくると、後輩が必ず「おはようございます」らしき挨拶をするのですが、何と言っているのか文字では表現できません。彼らが電車を下りた後で、こっそり友達同士でまねっこして、クスクス笑うのが無性に楽しかったんですけど、今思うと何が楽しかったのやら･･･。きっと若いってそういうことなんでしょうね。

選手の中には駅へ着いてもそのまま眠っている人もいて、その駅には長く停車しているので、しばらくは、みんなでニヤニヤしながら気持ち良さそうに眠っている選手をことをまじまじと眺めます。電車が出発する時間が近づいてくると、私たちも慌てはじめ、
「着きましたよ」
と何度も囁いて起こしてあげる友人もいました。余程疲れているのか、ほとんどの人が何度声をかけても目を覚まさなかったです。目が覚めた瞬間は、どんな人でも鳩に豆鉄砲で真っ赤になるのが、すごくかわいらしかったです。
誰かが寝過ごして電車に乗ったままでも、選手同士では起こさず、置いてけぼりをしてしまうのがとても不思議。私たちがいなかったら、下関まで行っちゃったかもしれませんよ。

私が高校生の頃の甲子園と言えば、桑田・清原のPL学園。宇部商もそのPL学園と熱戦が繰り広げました。当初の予想では、ボロボロに負けるだろうと思ってたのですが、これがなかなかいい試合をしたんですよ。その試合の後でも、変わらずに電車に乗っている選手へ「がんばったね。感動したよ。」なんて言葉を交わすことはありませんでしたが、同じ電車に乗っていられることが、ちょっとうれしかったことを憶えています。

時は過ぎて、音楽講師をしている頃、ホテルの部屋を借りて発表会をすることがありました。生徒さんはドレスを着て、頭にお花やおリボンを付けておしゃれをし、その姿を家族も愛しそうに見つめています。ある年、発表会の前日に宇部商が甲子園で戦うということがありました。私の生徒の中には、ひとりだけ宇部商の生徒がおり、当然試合の応援に行きます。甲子園から宇部までバスでの移動なのですが、夜出て朝到着するということで、演奏の順番までに彼女が到着できるのかとハラハラしたことがありました。偶然にも、そのバスを運転しているのが、また別の生徒さんのお父さんだったので、バスの無事到着をみんなで祈るというユニークな発表会になりました。
到着した生徒とバスを運転していたお父さんは、試合の応援で、鼻の頭もほっぺも腕もまっかっか！しかもほとんど眠っておらず、その生徒のモーツアルトはヘロヘロ。お父さんは、自分の娘の演奏の時、ぐっすり眠ってしまいました。発表会が終った後、二人ともばつが悪そうでしたが、見た目だけは、真っ赤に燃えていちばん頑張っていたぞ。

東京に出てきてからはオフィスで観戦している時に、ボークでゲームセットになり、同僚に慰められながら、肩をがっくり落としたこともあったっけ。
明日8月9日の第3試合、取材のためテレビ観戦することはできませんが、すごく応援しています。野球に懸ける真っ直ぐな気持ちをぶつけて、感動をください。期待しています。

＜文責/泉 あい＞