記者クラブ制度を考える訴訟
7月20日
東京地方裁判所へ行って、生まれてはじめて裁判を傍聴してみました
フリージャーナリストの寺澤有さんが国を相手取って訴訟を起こしたもので、「Seikyo Media Page」には「今回の訴訟は、裁判所が記者クラブ非加盟社に傍聴席と判決要旨を用意しないのは、憲法14条(法の下の平等)および21条(表現の自由)に反するとして、国を相手取り248万円の損害賠償を求める内容。1999年に行った同趣旨の訴訟に次ぐものだ。 」とあります
この日は、先日ご自宅を放火された「ストレイ・ドッグ」の山岡俊介さんが、証人台へ上がられるということで、気になる山岡さんがどんな方か、裁判ってどういうものなのか、裁判所ってどんなところなのか、法廷で記者クラブの何について語られるのか等々、いろいろなことに興味をひかれて霞ヶ関へ向かいました
誰でも傍聴できるらしいとわかっていても、無駄に緊張する私を迎えたのは、入り口の持ち物検査
動作としては飛行機に乗る時の要領と全く同じなのですが、行うのは笑顔ひとつない警備員で、空港と裁判所では緊張感に大きな格差があるものなんですね
入って正面のカウンターに置いてある冊子を見て、一日に行われる裁判の数の多さに驚きました
ほとんどの裁判は、被告の欄がどこかの企業の名前になっていますが、寺澤さんのところには「国」と一文字だけ
シンプルだけど重い一文字に見えました
その冊子で、5階527号という部屋であることを確認し、エレベーターへ
部屋の前では、黒い洋服を着た女性が2人、楽しそうにおしゃべりをしています
裁判所の緊張した空気に慣れていらっしゃるように見え、「この女性は裁判所の職員さんかしら」
女性たちの横を通り過ぎ、部屋へ入ると、既に10人ほどの人が静かに座っています
どんな人が傍聴しに来るのか興味がありましたが、明らかに記者だとわかる人や、学生のような若い女性の姿もありました
多分、私がいちばん「何者だ?」と思われていたと思います
気がつくと、さっき廊下でおしゃべりしていた2人の女性が、法廷内のしかも被告側の弁護人の席に座に!!
「弁護士も見た目は普通なんだな」と変に納得した私です
しばらくして、寺澤さんや山岡さんが、傍聴席の後のドアから、つまり私たち傍聴人が出入りするのと同じドアから入って来きました
傍聴人は全員が注目していますが、誰も席を立つことも声をかけることもありませんでした
厳粛な空気が漂う中私だけ、裁判の関係者は、法廷の前にあるドアから、並んで入場するものだとばかり思っていたので、そのことに呆気に取られていたかもしれません
寺澤さんは、インターネット上で見かける画像と全く同じという印象でしたが、山岡さんは、私のイメージとは反して、すごく穏やかで優しいそうに見えました
考えてみれば、放火された直後は、精神的にもダメージが大きかったでしょうから、その時の画像と比較しちゃだめですね
書記官が「もう少しお待ちください」と言ってからしばらくして、裁判官3人が高い所からご入場
黒いマントのような服を生まれてはじめて見ましたが、それに見とれる暇はありません
向かって右側の、まだ若いだろうと見える女性の右の鼻の穴に、ティッシュが刺さっていたからです
そんな姿で公の場に出なくてはならないなんて、同じ女性として同情します
笑ってティッシュの理由を説明することができれば、どんなにか楽だろうに・・・
裁判官が席につくと、裁判は予想以上にスピーディーに進行しました
すぐに山岡さんは証人台へつくように指示され、宣誓を読み上げます
裁判長が、審理は録音されていて、会話が重なると聞き取る事ができず記録できないので、必ず質問が終ってからゆっくりと答えるようにと優しく説明するのを聞いて、私は「元フジテレビの露木茂さんみたい!」と思いました
私のイメージの中の裁判長は、「仏頂面で真面目だけが取り得です」という感じの人だったので、終始にこやかで初心者にもわかりやすい口調の裁判長に、私は関係ない傍聴人のくせに気が楽になります
むしろ、寺澤さん側の弁護士の口調を攻撃的だと感じました
「法廷から退いたのは、あなたの意志でしたか?そこにいようと思えばいられたのではないですか?」など、山岡さんを軽く威嚇しているかのように見えましたけど、単に滑舌が良いからそう感じただけでしょうか
山岡さんは、それらの質問に対して、
「記者クラブの人が来たので退いてくれと裁判所の職員に言われ、席を立ちたくはなかったが、このままいるともみ合いになって、開廷を遅らせてしまうことになるかもしれない
他の人たちに迷惑をかけるわけにはいかないと思い、席を離れて法廷内に立っていた
その後警備員の格好をした人が、5,6人入って来て『出て行け』と言い、このままこうしていると混乱を招く恐れがあるので、本意ではないが退いた
あのまま中にいれば、おそらく強制排除になったであろう
私は恐かったのではなく、他の人に迷惑をかけたくなかったので、大人としての行動を取った」
と答えました
弁護士は、山岡さん宅が放火された日のことも質問し、山岡さんがどうやって逃げたか、資料はほとんどがすすけて読めなくなったとか、エアコンや照明が燃えてしまったという話もありましたが、そのことが裁判にどう関係しているのか私にはよくわかりません
山岡さんは、政治結社から「書くな!書くならヒットマンを飛ばすぞ」と言われたとか、軟禁状態にされて「謝れ」と言われたという過去の経験についても話しました
普通に優しそうな方が、そういう状況からどうやって生きて帰って来られたのか想像できないし、そんな仕打ちをされても書くことを止めない信念や強さはどうやって養うんでしょう
被告側の女性弁護士からの反対尋問がはじまると、声がか細くて、マイクがあっても聞き取りにくい
何度か弁護士の質問と山岡さんの発言がダブってしまうと、裁判長が鋭く突っ込みます
「いいですか、質問を最後まで聞いて、それから話してください」
そう言う時も裁判長の口はにこやかでしたが、目はこわかった・・・
女性弁護士の質問は、立ったとかしゃがんだとか、誰がいたとか記憶をたどる作業で、それを必死に思い出そうとする山岡さん
そんなこと普通は憶えていないよと思えることが多くて、気の毒だと感じました
裁判官からの質問もいくつかありましたが、ティッシュを刺している女性裁判官は、
「フリーの記者のお友達は何人ぐらいいらっしゃるんですか?」
と尋ねましたが、どういう意図があったのでしょう
山岡さんくらいの方だと相当な数の方とお知り合いでしょうと予想しましたが、案の定、
「え〜、数え切れないくらいたくさんいると思いますけどね・・・」
と山岡さんは困ったように答えていました
被告側(国)の反対尋問と併せ約30分の証言後、裁判長(奥田隆文氏)からいくつか質問があった。
そのなかで、記者クラブ所属社の記者と、傍聴席確保、判決要旨文交付の件で、話し合いを持ったことはないかと聞かれた。そこで本紙・山岡は、所属記者と話し合いを持っても話にならないから「ない」と答えたところ、裁判長は先に結論を出すのはいかがなものか、と感じられる発言をした。また、同じ報道に携わる“仲間”なのだからといった発言もあった。
これに対し、本紙・山岡は、彼らは当局発表情報を主に流しており、これに対し当方は主に独自の調査報道をしており、これには個人的リスクも負っており(訴訟提起、脅迫、今回の放火等も含む)、残念ながら“仲間”とは言いがたいと主張しておいた。
当方の答弁をていねいに聞いてくれた裁判長だが、果たしてフリーライターという存在をどの程度理解されているのか、少々不安を隠せない質問であった。
この時、「記者に話してもその上司や組織のこともあるし」と山岡さんが証言した記憶があるのですが、私自身も記者クラブの取材をして、この問題がどんなに深いものなのか理解しているつもりです
裁判長が、そのことを理解しているのかと、私も疑問に思いましたし、提出された資料でどれだけメディアの実態をつかめるのだろうと思います
それだけ証人の責任は重大だと感じます
それから、この法廷の傍聴人の数は、途中から入って来た人を入れても13人とガラガラ
既存のメディアは、どうしてこの件を報道しないのでしょうか
それも疑問です
閉廷した後、山岡さんが既存のメィデアの記者の方へ、
「あんなこと言ったけど、別に記者クラブを敵に回すつもりはないんですよ」
と肩をすくめて話している姿を目撃
記者クラブに入っていようがいまいが、お2人の姿はジャーナリストという同志のように私の目には映りました
警視庁の記者クラブの閉鎖性を検証しようとしている私にとって、この日見た光景は、これからの支えになりそうです
訴訟を起こして「自分は本気だぞ」と闘う寺澤さんや、妨害をものともせず書くことを続ける山岡さん
明日、再び警視庁へ電話をかけますが、落ち着いて自分のしたいことをはっきりと話したいと思います
もし、迷惑そうな対応をされたら、寺澤さんや山岡さんの姿を思い出し、1秒でも早く吹っ切る!
以前テレビ局への取材でボロボロになった時の自分を思い出し、あの頃よりは強くなったぞと、自分自身で確信したいとも思います
裁判所は誰でも入れる場所なので、これからちょくちょく見学してみようかなと思います
神奈川県警の広報の方にも「勉強してこい」と言われたことですし、刑事裁判を見て知らない単語を拾い集めてみるのも勉強になりそう
次回の寺澤さんの訴訟は、9月28日の11時からです
その頃、私の中で記者クラブの問題がどうなっているのか楽しみでもあります
<文責/泉 あい>
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コメント
すみません、経緯がよくわかっていないので基本的な質問なのですが
山岡さんの証言「記者クラブの人が来たので退いてくれと裁判所の職員に言われた」とのことですが
それって、例えば今回あいさんが傍聴席にいても、後から記者クラブの人が大勢いたら「退いてくれ」って言われる可能性がある、ということですか?
投稿: 美也子 | 2005年7月22日 (金) 11時00分
裁判は、事前に資料が提出されているようで、それを元に進められているように見えました
裁判自体、傍聴人に見せるためのものではないので、それらを資料として傍聴人に配るということはありません
だから、どういうことについて話をされているのか、明確にわからないことも多いです
ここで私がわかるのは、山岡さんが傍聴していた裁判では、記者クラブ加入者専用席があり、山岡さんはおそらくそこに座っていらっしゃったのだと思います
私が傍聴した裁判は傍聴人の数が少なかったからなのかはわかりませんが、記者クラブ加入者専用の席はありませんでした
裁判には、大法廷・合議法廷・単独法廷の3種類があるということで、傍聴人の数に違いがあるようです
投稿: ぁぃ | 2005年7月23日 (土) 22時59分