神保哲生さんというジャ−ナリスト
ビデオジャ−ナリストの神保哲生さんにお会いする機会をいただきました
「GripForum」に協力していただきたくて、神保さんへメ−ルをしていたのですが、神保さんには面識がなく、私がどういう人間かもわからないのに、メ−ルのやりとりだけで協力してくださいと言うのは虫がいい話
「お顔をお見せします」とメ−ルをすると、「ぜひ遊びにきてください」というメ−ルをいただいた私は、少し有頂天です
ジャ−ナリズムのこと、ネットジャ−ナリズムのこと、ビデオのこと神保さんから多くのことを吸収させていただくために「VIDEO NEWS」のオフィスへ向かいました
フロアに着いて、「VIDEO NEWS」のロゴが貼ってあるドアを見つけ、ひとつ深呼吸
「キンコン」
意外に軽い音でした
少し待っても何の気配も感じず、もう一度人差し指を立てた時、ガタっと音がして神保さんが携帯を耳に当てたまま、
「どうぞ、奥の部屋へどうぞ」
と案内してくださって、『神保さんが直々に出てくてくださったょ・・・恐れ多いなぁ』と思いながら、通された部屋は、何と「VIDEONEWS.COM」の「マル激トーク・オン・デマンド」でお馴染みのスタジオでした
部屋の半分にレンガの壁紙が貼ってあり、天井には大きなライトが3つ
残り半分の空間にビデオ編集の機械やパソコン、カメラが数台が置かれています
床には、無数のバッテリ−の充電器が置かれ、「ここで実際に収録されているんだぁ」とスタジオに入れてもらえて得した気分になっていました
「いずれは動画も」と思っている私は、「ビデオやビデオジャ−ナリズムについてのお話も聞けるかな・・・いや、何もかも聞きたい!!」と期待に胸がふくらみ、もしかすると、目が血走っていたかもしれません
そのまま神保さんを待っているとコピ−機の音が聞こえ、スタジオに入って来られた神保さんは、私にひとつの資料をくださいました
1991年の10月1日の「AERA」の「日本の記者クラブ」という記事で、「人権感覚」「外国記者」「情報公開」「日地米の相違」「アンケ−ト」の5つに分けて構成されています
最初の「人権感覚」では、「記者クラブが人権侵害の加担者になってはいないか」と問題提起をしているのですが、そこに引き合いに出されているのがロス疑惑の三浦和義さん
私は、今週の月曜日に行われたあるシンポジウムで、無罪判決の後あれほどの報道をしたメディアが、1社も謝罪に来なかった現実を訴えていらっしゃった三浦さんの姿を見たばかりだったので、生々しいと感じました
「外国記者」の章は、AP通信の記者だった頃の神保さんのコメントを随所に入れて、効果的に記者クラブの閉鎖性について書かれたものです
若かりし頃(29歳)の神保さんのお写真も掲載されていて、一瞬私は、その写真に釘付け
資料をめくりながら椅子に腰掛けると、神保さんは記者クラブについて語りはじめ、第一声に「情報公開問題」という言葉が出てきて、私は慌ててノ−トとペンと取り出し、メモを取り始めました
神保さんは、「記者クラブに加盟している任意団体に向けて話すのは会見ではなく懇談」だとおっしゃって、私も確かにそうだなと感じます
「以前はそれで問題はなかったが、メディアが多様化してくるにつれて、そうも行かなくなってきた」と聞いて、過去に記者クラブに加盟しているメディアだけが報道活動をしていた時代のことを想像しようとして、おそろしくなって止めました
メディアの多様化ということですが、最初に出てきたのは外国の報道機関だと神保さんはおっしゃいました
日本の経済が大きく発展し、海外の投資家も日本の企業へ注目するようになると、投資家の利益のため海外のメディアも記者発表を日本の報道機関と同じタイミングでもらうことが必要になります
記者クラブが海外のメディアを入れなければ、日本の企業は、世界中から見向きもされなくなってしまう
だから、経済系の記者クラブには、海外の記者もオブザ−バ−や準会員など、クラブによってそれぞれ制約があるものの、一応入れるようになっているそうです
次に表れたのは、CS放送などの新規参入者なのですが、日本のメディアの多くは終身雇用制なので、新しいメディアへ人が流れることが少なく、記者クラブの問題が表面化することはなかったと神保さんは言います
確かにCS放送で報道番組を流しているのは、既存の放送局だけで、記者クラブに加盟することができない新しいメディアは、情報を得ることができないため、ストレ−トニュ−スを流せないという点にはじめて目が行きました
私は、毎日のようにCS放送を見ているのに、スポ−ツは中継するのに報道をやらないCS放送へ何の疑問も感じなかった自分が恥ずかしいです
そして、いよいよウェブの時代が到来して、神保さんのところの「VIDEONEWS.COM」や、「JANJAN」「日刊ベリタ」のようなインタ−ネット新聞が登場し、私のような個人で活動しているブロガ−も登場します
インタ−ネット新聞については、ウェブ発信している新聞を日本新聞協会が新聞として認めるのかというお話が出ました
日本新聞協会が加盟を認めないと入れない記者クラブが多いので、既に加盟の申請をしているというライブドアさんを日本新聞協会がどう見るのか注目したいと思います
ブロガ−についての神保さんの考えは厳しいものだと私は受け取りました
ジャ−ナリストを専業にしているのではなく、他に専門の職業を持ちながらエントリ−を書いている人も多いので、例えば株取引をやっている人が自分や顧客へ有利に働く記事を書くことがあるかもしれない
それに、今のブログのほとんどが、誰かの情報をコピ−ペ−ストしたもので、自分の足で取材をして書かれたものではないということを神保さんは危惧していらっしゃいます
どこで発信されたのかということが明記されていない情報をコピペしてることが多いようだし、コピペした段階で情報にスピンがかかり、それをまた誰かがコピペするのは、要注意だとおっしゃいます
コピペを無視して、足を使って情報を稼げば、その情報の価値は上がるけど、現場を見ないで仮説で発言することは危険だというのです
しかも、現実と離れた派手なシナリオにほどコピペ(スレッド)が多くつき、中にはわざと煽る人までいて、検索エンジンでも上位に来てしまうと、見る人には、それがあたかも現実のように受け取られてしまう
確かに、私もネット上に書かれていることと、実際自分の目で見たことが全く違っていたという経験をしているので、これは理解できます
でも、私はどこの情報なのかを明記した上で、ひとつのブログに多くの情報を集められ、質の高い分析をするという形もあっていいと思います
それをジャ−ナリズムと呼ぶかどうかは、読み手側の判断で、その読み手には高いメディアリテラシ−が必要だとも思います
私は、日々ネット上に取材記をUPし、コメントをいただいたり、トラックバックをするためのエントリ−を探している中で、情報を集約し質の高い分析をしているブログを多く見かけます
そういうブログは残っていくだろうと信じているし、これからもそういう人たちが出てくると考えているので、それほど心配はしていません
また記者クラブの話に戻りますが、記者クラブ制度で得しているのは、権力だというお話も出ました
特権的なアクセスを持つ記者クラブは、それだけ失うものも大きい
「クラブにいる人だけに話しているんだから、不利になることは書きなさんな」と圧力を受けると同時に既得権益を受けることは、メディアにとっては自殺行為だと神保さんは言います
クラブの中で知っていることを書けないという常識は、特オチしないで済む代わりに、スク−プを取りにくくするそうです
スク−プを取りにくくするのは、新聞の再販制度(再販売価格維持契約)と宅配制度も関係があると神保さんは言います
それは神保さんのブログにも書かれていて、
「ビデオジャ−ナリスト 神保哲生 official blog」より
問題は記者クラブ制度と再販価格制度が組み合わさることで、良い記事を書くとか、スクープを出すとかという動機付けがよりいっそう働きにくくなってしまうことです。再販で守られている新聞にとっては、スクープを出したところで社の売り上げが上がるわけでもなく、それでいて村の中で突出することのディメリットは計り知れないときます。そんなところで、誰ががんばってスクープを取るでしょう。
再販と宅配に守られている会社は利益を上げられるけど、新聞の一面にどのような記事が載ろうと売り上げが反映されないのでは、記者はモチベ−ションがどう保てばいいのかと私も同情します
話は「ジャ−ナリズムがなぜ必要か」へ移りました
人間の尊厳は侵されてはならないことで、最も侵されているのが戦争で、それは、国家の権力の暴走であるということ
国家権力の暴走は戦争だけではなく、あらゆるところで起きていて、例えば年金の使われ方とか、いろいろな不正とかを単純に暴くのではなく、なぜそれが放置されているのかを報道するのかが、ジャ−ナリズムの大義だと神保さんは言います
日本は、経済が急激に成長したけど、ジャ−ナリズムに於いてはまだまだ幼稚だという意見を聞いて、私も共感します
幼稚なのは、メディアや記者だけでなく、読者も同じなんだとも思っていて、私は、どちらかに頼るのではなく、報道する側と受ける側が相互に取り組まなければ、日本のジャ−ナリズムの成長できないと考えます
記者クラブの話から、既存のメディアやネットジャ−ナリズムについてなど、神保さんのお口からはジャ−ナリズムに関することが留まることなく溢れてきます
せっかく記者クラブについてお話してくださったので、きちんと録音させていただけるようにお断りをして、インタビュ−するべきだったと反省しています
神保さんはご多忙にも拘わらず、
「記者クラブについては、改めて時間を取ってあげるよ」
とおっしゃってくださって、懐の大きさを感じ、感謝の気持でいっぱいです
これから行う外国人記者クラブの取材からいろいろな疑問が出てくるでしょうから、それを踏まえた上で、AP通信の記者のご経験をお持ちの神保さんへインタビュ−させていただきたいと考えています
20年間記者をなさっている神保さんのお話を聞いていると、いろいろな人たちと向き合い、その想いを受け止めた20年間の重みをずっしりと感じます
止め処もなく溢れる神保さんのジャ−ナリズムへの想いからは使命感を感じ、今のメディアを問題視しそれが深刻なものだと捉えていらっしゃる
それは、既存のメディアと対等に仕事をする中で、日常的に向き合っていらっしゃる神保さんご自身の壁なのだと私は思いました
その壁は、神保さんの努力だけではどうにもならないもの
だからこそ、神保さんは、これから出てこようとしている記者たちに高いクオリティを求めていらっしゃるのだと痛感しています
私のようなヒナへ親鳥のように噛み砕いて、はっきりとお話してくださったのは、そんな神保さんの想いがあってのことで、それを無駄にしてはならないと武者震いをしています
「靴を減らして取材をし、ひとつでも多くの良い記事を書いてください」
と神保さんに言われたことが、この日私がいちばんうれしかったこと
私が自分の目で見たことを書いている「Grip Blog」の精神は、間違いではなかったのかなと
これからも「自分の目で確かめる」というやり方は崩さず、それでも形の上では試行錯誤しながら、一日一日を積み重ねて行こうと思います
<文責/泉 あい>
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コメント
そうです。50年前の新米記者が怒鳴られたのは「アタマで書くな、足で書け」 「記者は金蠅、糞に群がる。だが精神は社会の木鐸」 思い出しますね。
因みに新聞記者の管理職見習いは「デスク」と呼ばれます。副部長のこと。自らは取材せず、机にへばり付いて指揮だけするので、半分、揶揄したあだ名です。
いつまでも独立独歩、現場の第一線に立ち、ナマに取材源と向かい合う。
神保哲生さん、素晴らしい方と出逢われたのですね。明らかに現代マスコミに新しい地平を開かれた方です。
あいさんも、今回は、生き生きしてますね。安心しましたよ。
投稿: 新治太郎 | 2005年7月 9日 (土) 15時29分
神保さんもそうですが、今まで会ってくださったみなさんには、このHPをはじめなければお会いすることができなかった方たちです
私に共感してお時間を作ってくださることがありがたいですし、お話してくださったことは、みんな宝物です
それは、ここにコメントをいただけることも同じで、私は、人とコミュニケ−ションをとることで、生き生きさせてもらってます
投稿: ぁぃ | 2005年7月 9日 (土) 17時25分