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2005年7月 5日 (火)

アニマルセラピ− 【取材記4/馬とふれあう会】 

4 7月3日取材

中田動物病院の院長先生が中心となって開催している「馬とふれあう会」を取材してきました
本来「馬とふれあう会」は広く一般の人々に馬と親しんでもらうのが目的ですが、この日の乗馬の対象者は、健常者でなく知的障害をお持ちの方や車いすの方という障害者乗馬(RDA/Riding for the Disabled Association)でした

ボランティアの方とともに中田動物病院に集合して、そこからすぐ近くの横浜の住宅地の中に馬3頭と犬が2匹いるマ−チ牧場がありました
アイドル馬のミニュチュアホ−スの“マ−チ”と、ポニ−の“チャッピ−”と“ゆうた”を引いて、更に上にある青い風牧場まで連れて行きます
青い風牧場に到着すると、既に半血種の“ふく”と、どさんこの“ゆめ”も預けてある乗馬クラブから来ていて、ボランティアや参加者たちも集まってきました
みんなで明るく挨拶を交わすと、すぐに協力し合ってコ−ス作りがはじまります
草むらの上に赤いパイロンを並べて木の棒を渡すという手作りのコ−スが出来上がりました
その間こどもたちは、アイドル馬のマ−チの頭をなでたりお弁当を食べたり、それぞれにこの場所を楽しんでいます

スタッフの方を紹介すると、中心になっているのは中田動物病院の従業員の方です
院長先生をはじめ、若い獣医さんや看護師さんの他に、知的障害をお持ちであるスタッフの方もいらっしゃいました
中田病院の馬班と呼ばれる彼らは、朝5時から馬に運動をさせたり調教をしたり、表には見えないところでも働いていらっしゃいます
知的障害である松岡さんも、休ませている馬の手綱を引いて囲いの中を何周も歩いたり、ボロ(糞)の掃除をしたりと黙々と仕事をなさっていました
院長先生は彼について、
「最初は本当に何もできなかった
それが動物たちに囲まれているうちに、すごく変わった
動物たちのお陰ですね」
とおっしゃいます
参加者のご父兄の方の中には、
「院長先生が彼を雇っているから、その姿勢を見て安心してここに来られます」
とおっしゃる方もいらっしゃいました

ボランティアの方の力も大きいようです
乗馬クラブで普段馬と接していらっしゃる方や、競走馬の牧場で働いていらっしゃった方、あまり馬と接する機会をお持ちでいない方などいろいろですが、みなさん「馬が大好き」とおっしゃる方ばかりです
「僕は単なる馬好きで、運動不足解消に来てるだけ(笑)」
とおっしゃる方もいらっしゃいますが、どちらかと言うと、馬と接しているよりこどもたちと接している時間の方が長いような気がします
みなさんのお子さんに積極的に声をかけたりする姿を見ていると、馬だけでなくきっと人も大好きなのだろうと感じました

コ−スの準備ができると、みんな集まって院長先生のご挨拶を聞き、勉強会がはじまります
この日は、馬の盲腸や結腸についてがテ−マで、配られた紙には、上手に馬の腸の図が描かれていて、こどもでもわかるように院長先生が優しく説明してくださいます
馬とふれあう会の仲間だった愛ちゃんという馬が疝痛(馬の腹痛)が原因で亡くなったこともあり、質問コ−ナ−では疝痛について質問が集中しました
疝痛は、腸の長い馬にとって命に係わる病気で、結石などもその中に入ります
ちょうどこの日、ポニ−のゆうたが疝痛のために倒れてしまうというハプニングもありました
みんな心配しましたが、ゆうたの疝痛は大したことなかったようで一安心です
「いちばんうろたえていたのは院長なんだから」
と後で看護師さんたちと笑い話になり、一見ク−ルな院長先生の人間味もここで暴露される形となりました
ゆうたは、背中に乗せているこどもを下ろした直後、後ろ足から崩れるように倒れたので、私は彼の優しさや責任力の強さに心を打たれました

乗馬がはじまると、呼ばれたこどもたちから馬のところへ行って、スタッフに付き添われながら馬の背中にまたがります
私もポニ−のチャッピ−へ乗せていただきましたが、馬の背中は意外に高いものです
でも、こどもたちは高さにこわがる様子はなく、それどころか手綱から手を放し、頭を抱え込む自閉症の方もいらっしゃいました
それでも自分でちゃんとバランスを取って乗ってるから不思議です
あまり感情を表に出さない自閉症のこどもたちですが、力むことなく自然に馬に揺られている姿から、乗馬を楽しんでいるように私には見えました

突然、
「嫌だ−!嫌だ−!」
という声が響いた時には、私も少しだけびっくりし声のする方へ注目します
20歳のダウン症をお持ちである伸くんが馬の上で叫んでしました
叫んではいるものの、馬の上にはちゃんと乗っているように見えましたが、お父さんやボランティアの方がしっかりと回りを支えています
馬が歩き始めると、全く嫌がる様子もなく馬の背中に揺られている伸くんでした

中田病院の馬班は、音に敏感な馬たちがびっくりして暴れないように、声に慣れさせる調教を毎朝のように行っているそうです
「最初は、びっくりして馬は動かなくなりましたよ(笑)
馬だって嫌なことは嫌でしょうが、ほめてあげると納得するんです」
というスタッフの松本さんの言葉を聞いて、馬と人との互いの信頼関係を持つことが調教なのかもしれないと思いました

車いすのみさとちゃんへ、
「馬の背中は高いけどこわくないの?」
と質問すると、
「高いところ好きだもん」
と言います
いつも車いすに座っているみさとちゃんにとって、馬の背中は、視界が広がる別世界なのかもしれません
腰でしっかりとバランスを取り、足が不自由なことなんて全く感じさせない堂々たる乗馬ぶりは大したものです
「動物が大好き」
と言う彼女は、とても人なつこく、私のノ−トに大好きなイルカと小鳥の絵を描いてくれました
「何書いてるの?」
と、でこぼこの泥の地面の上を車いすを器用に動かして、私の行くところへ着いてきて、いろいろ話を聞かせてくれます
中学3年生の彼女は、小学6年生の時からここへ来て馬に乗っていること
動物が好きなのでここに来るのが楽しみだということなどなど
中でも、車椅子マラソンへ出場し、3位になったのが自慢です
どこの大会だかは、本人も把握していないのですが、とにかく3位なのです
その他に、ダイビングをしてイルカと一緒に泳いだこともあるそうで、
「馬とイルカとどっちが好き?」
と聞くと、小さな声で「イルカ」と答えました
きっと無重力な水の中で、彼女は人魚になれたのでしょう

もうひとりの車いすの方も、馬の背中にまたがるまでは、何人もの手が必要で大変な様子でしたが、乗ってしまうと人が変わったように生き生きしています
ただ乗っているだけなく早足で馬を走らせ、馬のタテガミが風になびいて、人も馬も気持良さそう
その姿は、私の想像をはるかに超えたレベルの高いもので、他のこどもたちの目標にもなっているようでした
でも、はじめは馬がこっちを向いただけでもこわかったというから、その進歩は目覚しいと思います

ここでは、ただ馬に乗って楽しむのだけではなく、記録を取りライディグプラニングを立て、どのくらい上達したか、どの馬がこの子に合っているかなどを検討したりします
ただ馬と親しむだけでなく、乗馬が上達するように目標を持たせることは、こどもたちにとって励みになっているのだと思います
こどもたちは、乗る時と下りる時に馬へ「ありがとう」の挨拶を必ずしますが、馬を引いてくれたスタッフにも挨拶を忘れません
人とコミュニケ−ションを取るのは苦手な自閉症のこどもたちも、少しずつスタッフと心を通わせ輪を広げているのです

自閉症のお子さんをお持ちのご父兄の方にお話を聞いてみました
「最初の2ヶ月は、入り口のところから入ってこようともしなかったんです
それを先生にお願いして、先生と一緒に乗せてもらったりして、もう無理やり乗せてもらってたんですよ
それが、富士外乗(馬とふれあう会の定期イベントで、牧場内ではなく富士山の近くの野外に出て乗る)の時に自分からあぶみ(足をかけるところ)に足をかけようとしたんです
それからは、嫌がらなくなりましたね
とにかく走らせること(速歩)が好きなんですよ
走らせると喜んでね」
と、この話をはじめた途端にすごくいい笑顔で話してくださったお母さんは、娘さんの進歩がとてもうれしいようです
普段の生活に乗馬が影響していることはないか聞いてみました
「聞く力がつきましたね
あと、待たなきゃいけないということもわかったみたいです」
乗馬をすることで、集中力が増し、社会でのル−ルについても勉強なさったようです

4歳の龍一くんは、1周する度にスタッフとハイタッチをして、ご機嫌な様子で馬に乗っていましたが、日によって泣いたり喜んだりするそうです
「猫を飼ってるんですけど、ここへ来るようになってやっと猫に目が行くようになりました
動物がかわいいということがわかったみたいです」
とお母さんがおっしゃるように、乗馬が終った後も、馬たちへにんじんをあげて頭を撫でていました
ここに来ているこどもたちの中には、馬に噛み付かれるという恐怖心はなさそうです

「嫌ダ−!」叫んでいたダウン症の20歳の伸くんは、「楽しかった?馬好き?」という私の質問に「ハイ!ハイ!」と笑顔で答えてくれました
待つこと、静かにすること、自分の要求が通らないこともあるということがわかるようになったとお父さんがおっしゃっています
ここへ来るきっかけになったのは、8年前に中田動物病院の前に馬がいるのを見かけたことだったと言うから驚きです
「最初の頃の方が素直に乗っていたよ(笑)
親の言いなりにはならないよと言いたいんじゃないかな
自我が出てきたということで、成長したんでしょう
それでも、ここへ来ることを嫌がらないから、馬に乗るのは好きなんでしょうね」
と語るお父さんは、息子が安心して乗馬ができる場所を提供してくださる中田病院のスタッフへとても感謝していらっしゃいます

馬とふれあう会は、中田病院の院長の力に頼っている部分が大きく、私の目から見てもその負担は大変だろうと思います
馬とふれあう会は、中田病院やボランティアなど多くの方の理解や善意の上に成り立つものであるとわかりました
それでも、
「もう少しボランティアの方が増えてくれれば」
と伸くんのお父さんがおっしゃるように、もう少し協力してくださるボランティアが必要だというのが正直なところでしょう

「明確にして欲しいのは、この馬とふれあう会は、アニマルセラピ−(AAT)ではありません
医療関係者、医学療法士がいませんから療法にはならないんです」
と、中田動物病院の獣医師でもある馬班の松本さんはおっしゃいます
確かに医学的な治療は、ここでは全く行われていませんが、いろいろな面での効果は上がっているのではないかと思います
集中力が増したり社会のル−ルを理解することは、馬が教えてくれることではなく、人と人との係わりの中で学んでいくことです
馬とふれあう会は、馬が大好きな人たちが集まってただ乗馬を楽しむ場とというだけでなく、人が好きで、その人たちの中でそれぞれが自分の存在価値を見出しているという気がしました
はじめて訪れた私も、心地良い時を過ごせたのは、馬も人も、みんながそれぞれを信用し合っているから

まだきっと入り口なんでしょうが、その奥にあるキラキラ光る破片の断片を覗けて、このテーマのもっと奥へ行こうと決心できた一日でした

<文責/泉 あい>
GripForum - アニマルセラピ−スレッド

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コメント

こんな良い人たちに会えた馬は幸せだね。
私の知ってる馬はアニマルセラピーとか嘘ついてる馬鹿者達のせいで殺されちゃったからさ。
動物と関わって心を開けたらすばらしい事だよね。

投稿: miho | 2005年7月 6日 (水) 19時33分

mihoさん

>私の知ってる馬はアニマルセラピーとか嘘ついてる馬鹿者達のせいで殺されちゃったからさ。

気になりますねぇ・・・

投稿: ぁぃ | 2005年7月 6日 (水) 23時31分

この記事へのコメントは終了しました。

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