記者クラブの表と裏 【取材記19回目/警視庁にて】
警視庁の記者クラブが閉鎖的であるのかを検証する時、情報を出している警視庁が、情報を外へ流すことについてどう考えているのかを知る必要があると思います
警視庁は記者クラブにだけ情報を流しているのか、先ずは広報課へ電話をかけてみました
「記者クラブに出ている記者発表を一般の人が閲覧することはできますか」という問いに対して、
「警視庁の1階の情報公開センターに来ていただければ閲覧可能です」
という回答を得て、「記者クラブに出されるよりは、少し遅れるんでしょうね?」と念のため聞いてみると、
「情報公開として閲覧可能な状態になるまでに、間に人が当然入りますので、どのくらい時間がかかるのかは即答できません
個人情報も含んでますので、確認をしないで置くわけにはいきませんから
今日、もしくは今、発表になったので1時間後にそこにあるのか、時間的な約束はできかねますね
でも、記者発表と同じものは出されます」
ということで、どのような方法で記者発表を見ることができるのか、警視庁の1階の情報公開センターへ行ってみました
入り口から入ると、受付で名前と住所と電話番号を書かされ、番号が書いてあるバッジをもらい、
「見えるところにつけてください」
と言われ、横にある待合室で数分間待たされました
決して情報公開センターへひとりで直接行くことはできません
私服を着た女性に導かれ、受付のすぐそばにあるドアを開けると、いかつい男性2人が座っていました
「今日はどういったことで?」
と軽い笑顔で言われたのですが、若干こわかったです
怯みながらも、電話でのやり取りを話すと、
「ここでは見れませんが・・・広報課がそのようなことを言ったのですか?」
と席を立ち、情報公開センターに置いてある閲覧できる文書を説明してくださいました
私は「話が違う・・・」と血の気の引く想いで呆然
「ここにはこういうものは置いてあるけど、記者発表はひとつも置いていませんよ」と言いたげに、『警視庁統計』や『警視庁交通年鑑』など、HPや都庁、国会図書館でも閲覧できるものを見せてくれます
「ここでしか見れないものはどれですか?」と質問すると、『町丁別の罪種別、手口別発生件数H13〜17』を手にとって見せてくれました
その後、情報公開制度についての説明がありましたが、条例の何条何項という難しい話が出たので、「録音してもいいですか?」と聞くと、
「メモしてください」
と言われ、目線を職員の上へ移すと「撮影はしないでください」などのルールが書かれていました
後で確認すると、録音や撮影をしてはいけないという法律はないそうなのですが、管理権に基づいて管理者が取り決めているということです
しばらくして、応対してくださる方が変わり、部屋には一瞬5、6人の職員がいて、逮捕されることはないとは思うものの威圧感をひしひしと感じます
記者発表が見られるのかを聞きたいだけなのに、なんだかオオゴトになってしまったのでしょうか
不安を抑えるために、できるだけ自分が話している人以外、視界に入れないよう努めました
広報の人が来るまでは、公文書を開示する制度について説明され、
情報を流すことについてという視点からはかけ離れていて、知らないことだらけで興味はあるけど、とても長く感じ、
「記者発表を見ることはできるのか?」という直球の質問をぶつけたい気持ちを抑えながら、そのタイミングを計ってみる
「今か?」とひとり心の中でやきもきしている時、広報課の人が入って来ました
結局、記者発表と情報公開は別の話ということで、話は進められました
「記者発表は、『こういう事件がありました』と口頭で発表され、場合によっては文書として資料が配られることがあり、1年間保管される」
という冒頭の説明の後、「情報を記者クラブにしか流していないのか」についての答えは次の通りです
「記者クラブに入っていない人が記者発表を見ることはできない
理由は、記者クラブに入っている記者は、新聞協会や記者クラブが身元や活動を保証してくれている
記者クラブに入っていない記者に突然来られても、どういう人なのかがわからない
警視庁が出す記者発表には、被疑者の名前や住所など個人情報が入っているので理解して欲しい
全てを見せないのではなくて、問い合わせをもらえば対応する」
記者クラブとはただの懇親会のようなものと、今までのインタビューで聞いていた私にとってはビックリな回答
警視庁が認める程の、個人を認定・保証する組織らしいです
では、記者の身元や活動が保証されれば情報を出すのでしょうか
それを確認するために、いくつか質問をしてみました
「記者発表が欲しいという記者の身元は調べないのですか」という問いに対しては、
「私は広報の職員で、捜査をする課の者ではないので、記者個人の過去に犯歴がないかなどを調べることはできません」
それでは、記者自らが身分を証明するものや活動内容を提示すれば、検討してもらえるのかと質問しましたが、
「提出するとかしないとかではなくて、報道機関というのは警察が決めることではなくて、世論が決めることです
世論が認めれば確固たる報道機関になるわけだから、警視庁が配信しないかと言えばそれとはまた別
例えば、『私がジャーナリストです』と自称して活動実態も何もない方に、個人の名前や住所、年齢、犯罪歴が書いてあるものを警察が渡すということを国民が理解しないのではないでしょうか」
記者クラブに入っていなくても、世間がジャーナリストだと認める活動をしている人はたくさんいますが、その方については、
「『この件について教えてください』という問い合わせをされれば対応はしてますよ」
と言います
しかしながら、最初にどのような事件が起こったのかは、記者クラブにしか情報が流れていないので、新聞等で情報を得るしかないのが現実です
記者クラブに所属している記者が、記事として取り上げなかった事件は、そのまま誰にも知られずに埋もれてしまうことになる
そのことが問題ではないかと私は考えているのです
だからこそ「身元が保証されない記者には情報を出せない」と言うのなら、身元を証明する資料を出しましょうと言うと、警視庁が決めるのではなく世論が決めることだと言う
会話は噛み合わず、はぐらかされた感じで、なぜはぐらかす必要があるのか勘ぐってしまいます
結局のところ、記者発表そのものを手に入れるためには、記者クラブに加入するしかないというのが現実のようです
では、記者クラブが新規に加入することを認めてくれない場合(現在取材申し込み中)、記者発表を入手するには新しく別の記者クラブを立ち上げるしか方法がないように思えます
どのような条件をクリアすれば警視庁は記者クラブとして認め、記者発表を入手できるようになるのでしょうか
そう問われた職員の方は困っているようで、警視庁には、新規の記者クラブを認める認めないを示したガイドラインはないようです
しかし、警視庁では過去に「七社会」という記者クラブの他に「警視庁記者クラブ」と「警視庁ニュース記者会」という新しい記者クラブが発足していて、
「その時はどうだったのですか?」と聞いてみると、
「それは、記者クラブの方へ聞いてください」
と言います
警視庁が情報を流しているのに、流すか流さないかをどのように決定されたのかを記者クラブへ聞いてくれというのは、どうしても納得が行きません
職員は世の中が認めた報道機関であるかどうかを強調したかったのか「それはにわとりと卵」と例えて言いましたが、何がにわとりで何が卵なのかも理解できない私は、にわとりでなく豆鉄砲を食らった鳩の状態
それくらい問いと回答に乖離があったと思います
誰もが認めるジャーナリストでも、記者クラブに所属していなければ、記者発表を手に入れることができない
それに反して、どんな記者でも記者クラブに所属さえしていれば、記者発表は手に入る
そして、ジャーナリストとして認めるのは世論によるものだとも言う
「これは矛盾していませんか?」と問いかけると、長い長い沈黙の後、
「そうですかね・・・」
と職員はポツリと言いました
警視庁には、守るべき個人情報があり、誰にでも情報を出すことができないというのはよく理解できます
それだけ慎重になる情報の扱いが、今日のやり取りでは明確にされていなく、その場しのぎの回答ではぐらかされたような気がします
一本筋の通った明確な回答ができないのは、情報公開について真剣に考えていないことになり
もっと勘ぐった考え方をすれば、警視庁が情報操作をしやすい既存記者クラブとの関係を守るために、それ以外の記者を入れたくないのではないかとさえ思えてしまいます
歴史の中で出来上がった記者クラブと警視庁の信頼関係と言えば聞こえは良いですが、メディアが多様化してきた今の時代背景の中では、見直す部分があると多くの人が言っています
しかし、「ストレートニュースがネットで配信されるようになりつつある中で、新しく出て来た報道機関をどう扱うのですか?」という質問には、
「これから検討しなくてはいけないでしょう」
と、世間で問題といわれているにも拘わらず、当事者の警視庁は、今はまだ何の検討もはじめていないのが現状なのです
<情報公開について>
東京都議会情報公開条法に基づいて行われている
開示請求は、東京都情報公開条例に基づいて、警視総監に対し行う(開示請求書を提出する)
1枚に付き閲覧は10円、コピーを持ち出す場合1枚に付き20円の料金がかかる(閲覧量は11枚目からは無料)
個人情報については、一度は発表されたものでも、黒く塗られて開示される
(過去に犯罪を犯した人でも、今は更正しているかもしれないので、個人を守るという意味で)
開示されるかどうかは14日間以内に決定され、大量にあるものなどは例外で延長される場合もある(最大60日)(第12条)
個人情報など、開示の適用除外になるものもある(第2条の2)
個人や企業を特定したものは出せない(第10条)
例えば、就職試験で採用する側が、求職者の犯歴があるのかを調べる場合など
情報公開条例は、昭和59年10月1日に「東京都公文書の開示等に関する条例」として公布、昭和60年4月1日に施行され、その後平成12年に「東京都情報公開条例」に改められた
警視庁が、この中に入れられたのは平成13年ということで、警視庁自体、情報公開について取り組みをはじめたのは最近のことだと言える
<文責/泉 あい>
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コメント
これは直球ではなく、かなり変化球的なアプローチですが、一連の道警裏金問題報道でデスクとして指揮をした北海道新聞の高田昌幸氏がこの7月1日付けで東京支社国際部に異動になっていますので、一度、取材されてみたらどうですか。あの一連の裏金問題は、道警の記者クラブにいる記者が取材にあたっており、これまでの記者クラブ制度における「当局と記者の関係」をひっくり返したという感じになっています(というより、本来あるべき姿に戻そうとした?)。少なくとも高田氏は私の取材には「この裏金問題は警察の記者クラブにいる人間がやることに意味がある」とはっきりと言っています。そして、「政治部の官邸詰めの記者こそが、官房機密費を取材し、それで(小泉の秘書の)飯島勲が恫喝してきたら、それを記事にすればいい」とも。また、いろいろと見えてくるものがあると思いますが。
投稿: 古川利明 | 2005年7月27日 (水) 13時11分
お疲れ様です。ブロガーマスコミ研究会とか作って押しかけてみたら、どんな応対して
くれるのか楽しみだったりします。まさか代表者だけでお願いしますとか逃げますかね。
指紋などの「個人情報の収集が大好き」な警察が情報公開の最後方を進むのも面白い
のですが。
ぁぃさんも受付で住所とか書いたら指紋と一緒に個人情報取られてますよ・・・・たぶん(w
毎度ながら文章と行動力には脱帽です。
投稿: 某S | 2005年7月27日 (水) 18時38分
古川さん
高田さんへは、警視庁の記者クラブから回答をいただいた後、それを踏まえてインタビューをお願いしようと考えています
高田さんという人へは、読者の方もどんな人なのか興味がおありでしょうから、人間性も引き出したいですね
情報ありがとうございます
投稿: ぁぃ | 2005年7月27日 (水) 22時30分
某Sさん
残念ながら、ブログだけで活動しているジャーナリストを知らないんですょ
以前警視庁へ行った時は、免許証の提示を要求されましたょ
指紋も取られるのか??
こぁぃょぉTT
投稿: ぁぃ | 2005年7月27日 (水) 22時32分
すごいですね! 今回は読んでいて、ドキドキしました。
昔、職務質問を受けたとき、警察手帳の提示を求めたときのドキドキ、そのときの理不尽な警察官の対応・・・(3度あるのですが、2度と経験したくない気分のものです。) そして、警察署に苦情を言いに行っても、「制服警官に警察手帳の提示を求めるのは非常識・・・」ということで、苦情は受け付けなかった。 その後、「怒りの相談室」にファックスしたが、採用されず、「マスコミもそこまでか!」などと思って、それ以上の行動はとれなかった。 苦痛だったのです。
ということでエールを送ります。希望としては2人で行動されたほうが安全かなーなんて思います。
投稿: ntaiti | 2005年7月28日 (木) 16時01分
ntaitiさん
>希望としては2人で行動されたほうが安全かなーなんて思います。
そ、そんなに警察ってこわい集団なんですか??
投稿: ぁぃ | 2005年7月28日 (木) 22時01分
×見れる → ○見られる
いいかげんな日本語使わないでね。
あなたの批判する「マスコミ」は
最低限、正しい日本語を守ろうとしてますよ。
>もっと勘ぐった考え方をすれば、警視庁が情報操作をしやすい既存記者クラブとの関係を守るために、それ以外の記者を入れたくないのではないかとさえ思えてしまいます
勘ぐりで、「情報操作」などの陰謀論を唱えることが「ジャーナリスト」の仕事なんですね。
おそれいります。
『私がみた事実』というタイトルは取り下げて、『私が妄想する事実』に変えてくださいね。
投稿: イワン | 2005年7月29日 (金) 03時46分
イワンさん
誤字の指摘ありがとうございます
いつまでたっても誤字してしまいます・・・
私の文章を読んでいただいて、その上コメントまでいただき本当にありがとうございます
読んでいてイライラしないように気をつけますので、これからも応援よろしくお願いします
投稿: ぁぃ | 2005年7月29日 (金) 12時04分
取材を踏まえた上で主観を打ち出すことは悪いことではないですよ。むしろ、主観を裏打ちするだけの取材があれば、それは優れたレポーターの証ではないでしょうか。「情報操作をしやすい既存記者クラブとの関係を守るために、それ以外の記者を入れたくないのではないかとさえ思えてしまいます」というのは、ほぼ正しいと思います。記者クラブは加盟社だけでなく、官庁にも都合の良いものですから。
投稿: 踊る新聞屋−。 | 2005年7月29日 (金) 22時41分
踊る新聞屋−。さん
ありがとうございます
「勘ぐる」という表現は、「考察する」という意味で使ったのですが、誤解を招く表現でした
取材をして考察して想定する
それは間違いではないと思っています
投稿: ぁぃ | 2005年7月30日 (土) 00時09分
主観を裏打ちするだけの取材があれば
投稿: | 2005年7月30日 (土) 10時55分
あ、確かにですよね 名無しさん
まだまだ、裏打ちするだけの取材に至ってなく、その点も踊る新聞屋さんが指摘したかった部分なんでしょうね
自分の都合のいいように解釈してしまいました
反省します
投稿: ぁぃ | 2005年7月30日 (土) 11時05分
泉さんがお書きになられたブログ記事を参考にしました。
読んだ印象としては、一般人が警察発表と同等の内容を見ることは、かなり厳しいような雰囲気ですね。
ちょうど、あるテレビでの犯罪被害者の匿名・実名報道に関して放送されていたので、それに関連する記事を書き上げる最中に、このような興味深い記事があったことに驚いています。
とても参考になりました。
投稿: e_r_i_c_t | 2005年11月 1日 (火) 19時57分