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2005年3月 4日 (金)

2005年スペシャルオリンピックス冬季世界大会−長野がはじまるよ!! 【取材記11日目】

3/3(木)

Ouen600jpg 「この大会を日本でやりたいとう情熱、熱意がものすごくあったんですね」
「NPO法人 2005年スペシャルオリンピックス冬季世界大会・長野(SONA)」の事務局長さんのお言葉です
「SONAとしてNPO法人が大会の業務運営に関わる責任を引き受けたのは昨年の7月14日でした」
と聞いた時は、空気をいっぱい吸っていっぱい吐いたと思います
そのくらい私はびっくりしました
約7ヶ月の準備期間で、世界大会をやり遂げられたのは、多くの人の情熱に支えられた努力が結集したからだと思います

「ボランティアのための大会」
競技が行われている会場で、一般のお客さんの声が聞こえました
私自身にも疎外感が芽生えたため、事務局長さんにお話を聞きに行ったのです

長野市内の会場を回っての現状を話しておきますと、一般のお客さんが苛立っているのは、ボランティアが優先されていると感じているからでした
と言っても、クレデンシャルカ−ドやスタッフジャンパ−を着ている人のことを全てボランティアだと思っていらっしゃるようで、勘違いの部分もかなりあると思います
不便だという声の多いバスに関してだと、無料のシャトルバスが観客のために用意されたのは、エムエゥ−ブからホワイトリングだけ
あとは、路線バスですが、長野駅からホワイトリングに行こうとすると、10時23分の次は14時23分だったりします
エムウェ−ブには、長野駅から1時間に1本の路線バスが出ていて、エムウェ−ブまでは路線バスで行ってそこから無料のシャトルバスというテもありますが、シャトルバスも1時間に1本なので、タイミングが合わないとすごく時間がかかってしまいます

「ボランティアはシャトルバスを利用できるのに」
と言う声は、ボランティアの人に振り回されることが多いので、余計に不満になってしまうようです
競技について質問をすると、わかる人に確認してくださって、詳しく説明してくださいます
「よくわからないんです。すみません」
とはっきり言ってくださると、わかる人を探せばいいだけのことなので、これは全く問題がありません
問題なのは場所の確認で、「わからない」と言われるのは仕方ないと思いますが、嘘の情報を告げられることは、正直かなり多かったです
地元じゃない方もいっぱいボランティアに来てくださっているのでしょうけど、観客は会場のインフォメ−ションセンタ−付近に立っていらっしゃる方や会場の外にいらっしゃる方に質問するしかありません

でも、私が疎外感を持ったのは、会場の雰囲気でした
客席には、「ファミリ−席」「メディア席」と張り紙はしてあって、一般の私はどこに座ったらいいのか全くわかりません
ひどい時には、どのドアから入っていいかもわからず、聞こうとすると、
「カ−ド持ってます?」
と厳しい表情で聞かれます
「持ってないんですけど」
とまで言ったところで、
「ここはカ−ドがある人じゃないと入れないんですよ」
とやはり厳しく言われます
「はい、普通の観客はどこから入ればいいんですか?」
と聞くと、
「あっちの方ですよ」
セキュリティを守るというお仕事に徹していらっしゃるのでしょうけれど、カ−ドを持っていないことを責められているかのように感じて悲しくなっちゃう
こういう扱いをされると、ずうずうしい私でもかなり傷ついて、かなり長い時間落ち込むんです
大会3日目は、お客さんの数がかなり少なかったので、一般席に座っている人は浮いているような感じもしました

せっかく観戦に来て応援したいのに、自分は場違いだったのかとすごくさみしい気分でした
「カ−ドを持っていますか?」
「カ−ドがないとだめです」
「え?カ−ドお持ちじゃないんですか?だったら・・・」
その言葉にうんざりしたのは確かですが、こんなことにいちいち落ち込んでしまう自分が嫌で嫌で、どんどん追い込まれました
この大会を盛り上げようと努力していらっしゃる方たちがいっぱいで、私もそういう人たちに支えられたすばらしい大会だということを伝えるために長野まで来たはすなのに

とても長くなってしまいましたが、勇気を出して問題点を大会へぶつけてみようと思ったのは、このままじゃ帰れないと思ったから
もしかすると、大会の問題点を掘り下げれば社会の問題点が見えてくるかもしれないとも思いました
1日中悩みましたが、大会の担当者は、私の主旨を理解しようとしっかりと向き合って話を聞いてくださいました
そして、事務局長さんにお会いできたんです

事務局長さんは、先ずスペシャルオリンピックスの認知度の低さが障害になったと話しました
認知度が低いということは、資金だって集まりません
事務局長さんは、オリンピックやパラリンピックと規模を比較して説明してくださいました
スペシャルオリンピックスは、参加国84カ国、選手団約2600人、資金28億円
98年の長野オリンピックでは、参加国は72カ国で選手団はほど同じ、資金は1135億円
同じ年のパラリンピックは、選手の数は今回もスペシャルオリンピックスの約三分の一、資金ほぼ2倍のは約55億円です
選手の数と資金を比較してみれば、スペシャルオリンピックスの資金がいかに少ないかよくわかります

通常オリンピックだと10年近くかけて準備をして、最終の4年くらいをプレ大会をしながらシュミレ−ションするそうですが、今回のスペシャルオリンピックスはたった7ヶ月
絶対的に時間がありません
しかも、大会運営資金がその時点で明確な目途が立ってないし、人手も足りない
事務局長さんが、熱い口調でおっしゃるのは、
「時間がない、お金がない、人がいない
じゃあ、何があったかと言うと、この大会を日本でやりたいとう情熱、熱意がものすごくあったんですね
細川さんをはじめ、いろいろな人たちの熱意が後押しをして、昨年の7月に全く新しい組織を地元の方を中心に作って、安川英昭さんに理事長に就任いただいてスタ−トを切りました」

最初、スペシャルオリンピックスについて説明しても、
「知ってますよ。応援してますよ。あの身体障害の方のオリンピックですよね」
という反応が多かったそうです
その中で「スペシャルオリンピックスとはこういうものですよ」と説明して歩いたそうです
とても地道な活動が実を結びはじめたのは、昨年の12月頃だったそうです

「7ヶ月という短い時間の中では、やっつけ仕事になってしまった部分もあるでしょうね」
と私の意地悪な質問にも、
「やっつけ仕事ということは全くありません」
と自信たっぷりで答えられました
なぜなら、SONAは、オリンピックやパラリンピックを経験者で構成されていますので、全体像がわかり、問題点は何か、その対策には何をすればいいのかというネットワ−クがあるそうです
「地域を上げて、オリンピックやパラリンピックの経験者を送り、必ずこの大会をやるんだという決意でやっています」
事務局長さんは、スタッフを心から信頼していらっしゃって、だからこそいい人材が集まり、大会を実現することができたのだとわかりました

ボランティアに関しては、一般研修と担当業務に応じた研修の2種類が行われています
そこに付け加えたのは、チャレンジボランティアというスペシャルオリンピックス独自の研修で、知的発達障害のある方のボランティア施設等で、事前にボランティアをしてくださいとお願いをしたそうです
職員の方130人も全員ボランティア活動に行かれたそうです

バスの不便さについて質問すると、
「限られた大会運営資金を考えた中で、どこにプライオリティ−(優先順位)を持って行くかという中で、既存の施設、公共交通機関を使うということをしないと、大会はできませんから」
とおっしゃいました
どこの部分に限られた資金を当てていくかということになれば、既存の公共交通機関があるところには、それを使ってもらい、ないところに関しては、無料のシャトルバスを走らせました
ただし増便をしてくださいと交渉なさったそうですが、長野市内に関しては増便はされていないようです
「私たちの考えとしては選手がいちばん、アスリ−トファ−スト」
と事務局長さんにきっぱりと答えていただいて、「なるほど」と納得しました
少ない資金の中で、最大限の努力をなさっていたと知り、もっと認知度が高ければバス会社も協力してくれていたのかしらと疑問に思います

地元長野の方の中には、オリンピックやパラリンピックはもっともっと盛り上がっていたとおっしゃる人もいます
アメリカのように、スタ−の力を借りるのもいいかもしれません
スペシャルオリンピックスを見たいと思っていただくためには、感動をもらった人がその感動を伝えていくという作業の積み重ねが必要だと思います

そういう意味ではホストタウンプログラムで、アスリ−トが地域に入れば、直接触れ合うことができるので、その輪は広がりやすいと思います
しかしながら、実際にはホ−ムステイを受け入れる家族は少なかったそうです
長野はオリンピックで海外の方を受け入れているという経験があるし、ホ−ムスティも長野市は国際親善クラブを中心に盛んにやっているのでそんなに抵抗ないのですが、知的発達障害という方ってどんな方っていう部分で躊躇なさった方がいらっしゃったようです
「結局それは、街に知的発達障害の方がいないからなんですよ」
と事務局長さんは、昭和40年代の頭から国の政策として、全国でコロニ−と呼ばれる大規模な知的発達障害の方の収容施設ができて、そこに入れてしまい、地域から知的発達障害のある人がいなくなってしまった結果、問題意識が薄れたと、地域の中で知的発達障害の人が出て行くことの必要性を訴えられました
映画「エイブル」(1、2)を観ていただいたり、実際に知的発達障害の方をケアしている方たちの話を聞いたりという積み重ねで、「これだったらできるね」と受け入れてくださる人が出てきたそうです

「私も疎外感を持ちました」と正直にぶつけた時、事務局長さんはがっくりとうなだれてしまいました
それを見た時、一生懸命やっているのに、そう感じる人がいるのかとがっくりなさっているのだろうと、私の方が申し訳ないという気持ちになって、やはり私の心がちっちゃかったのだ反省しました
そして、日本で開催するスペシャルオリンピックスの世界大会にこんなにも尽力なさっていらっしゃる方に触れて、もっと応援しなくっちゃという気持ちが強くなり、事務局長さんのお気持ちをもっと知りたくなって雑談を試みました

大会が終盤に近づくにつれ、小学生の団体が応援している姿が増えているのを感じ、しかも、その小学生は旗を降り、大きな声を上げ、拍手を送る
その一生懸命な応援の姿にも感動させられました
実は長野では『一校一国運動』という長野オリンピックの時に、長野国際親善クラブの会長さんがはじめたプログラムで、オリンピックに参加する国と選手団をマッチングしてその国の文化や歴史などいろいろなものを勉強して、実際に選手が学校に来たら、交流し会場で応援をするというものがあります
これをヒントに、今回のスペシャルオリンピックスでは「一校一参加運動」をやりました

子供たちが参加するということが、彼らの人生に於いてもこれからの地域社会に於いても、大きな要素を占めると事務局長は考えていらっしゃいます
というのは、子供は知的発達障害の人に対する偏見を持っていないので、子供たちは、あるがままに受け入れることができます
そのために、がんばる姿を見るというのは、非常にいい教育上の効果があるんだそうです
7月にお願いに行った時、年間のカリキュラムが2月に決まってしまうので、
「もっと早く来ればよかったのに、残念でしたね」と教育関係者の方に言われたそうです
事務局長さんは、
「ここで1年のカリキュラムを組んでるからだめと言うのではなくて、総合学習の時間で、スペシャルオリンピックスについて、そして知的発達障害についてやればいいでしょう
勉強して、子供たちが行きたいと言えば、連れてってやればいいでしょう
実際に行って観るかテレビを通して見るかで、生涯こどもの人生変わりますよ
勉強して競技を見に行けば、絶対得るものがある、学ぶものがある
選手から受けるもので変わってきます」
と説得なさったそうです
でも、最初が動いていただけず、スペシャルオリンピックスの認知度が高まってきて、行政でも応援のためのバスを借りる費用について財政的な支援を作ってくれて、提案を受け入れてくれた学校が出てきたそうです

事務局長さんとお話して、私は、スペシャルオリンピックスで勉強したことやこどもたちが実際に見たアスリ−トの姿について家庭に持ち帰って親子で会話してほしいと願います
こどもが純粋な心で感じたことを親に話すことで、親の偏見がクリアになればいいと考えるからです
私の考えを聞いた事務局長さんは、
「今までは、障害を持っている人を自分とは違う人だと思っていたけど、いろいろな交流を通して「なんだ、お友達と同じじゃん」とわかるんです
『同じ』とコメントしたというのは、この地域にとってものすごい財産になるんですよ
できれば、こういったものが日本中に広がってほしいですね」
とおっしゃって、私はこのスペシャルオリンピックスがそのことに大きく貢献していることを再確認しました

今回のスペシャルオリンピックス世界大会では、小さな額だけれど多くの企業が支援してくれているそうです
「泉さん、今の障害者のいちばんの問題って何だと思いますか?」
事務局長さんからのいきなりの質問に身構えましたが、
「職場ですか?」
と答ると、大きくうなづいた事務局長さんは、
「究極なところでは、経済的な自立と言えると思います」
と、障害があっても納税できる、消費するとお金を払う立場になれる世の中にしなけらばならないと強調なさいました
障害者年金は、2級で6万くらい、1級で8万くらいもらえ、そこへ月額5万でも障害者自身で稼ぐことができれば、充分暮らしていますが、現実は仕事がないそうです
障害者の法定雇用率は1.8%だけれど、一般の企業はほとんどクリアされてなく、特に200人以上の企業は2%以上の雇用がないとペナルティが課せられるんですが、企業の発想は利益優先なので、障害者を採用してその人をサポ−トする人をつけるよりもお金を払ったほうが安いという感覚なんだそうです
スペシャルオリンピックスにお金を出して、大会に関心を持ってもらえば次は雇用と、考えていた以上に大会の意義ががあるのですね

スペシャルオリンピックスは、時間・金・人がないという苦しい状況の中で、情熱を持った人たちの手作りの大会です
それは、簡単なことではなかったと思います
メディアの受付であるメインメディアセンタ−のスタッフもサブメディアセンタ−のスタッフもほとんど眠っていらっしゃいません
見ていて大丈夫かなと思うほどですが、
「とにかく、事故なくみなさんが無事に・・・」
と大会の成功を願っていらっしゃいます

この情熱はどこから来るのでしょう
もっとスペシャルオリンピックスを探ってみます

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