ニ−トってなに? 【取材記3日目】
ニ−トの現状を知るために下調べを重ね、いろいろなことを知れば知るほど、ニ−トという言葉のいい加減さと、言葉の必然性に疑問だらけになってしまっています
どういう人をニ−トと呼ぶのか、先ず統計を調べてみると、あちこちで挙がっている「2003年の平均は52万人(PDF)」という数字は、総務省統計局「労働調査(詳細集計)」を厚生労働省労働政策担当参事官室にて特別集計と書いてあります
注意書きとして、「非労働人口のうち15〜34歳で卒業者かつ未婚であり、通学や家事を行っていない者について集計した。」とあります
一方、労働政策研究・研修機構副統括研究員の小杉礼子さんは、2000年の国勢調査を基に76万人と推計しています
そして、ニ−トに関する唯一の書籍「ニ−ト フリ−タ−でもなく失業者でもなく」には、15歳以上25歳未満の若者のうち「89万人は働こうとして仕事を探しているわけでもなく、かといって学校に通っているわけでも、進学しようとしているわけでもない」と書かれています
なんだかいろんな数字があって、どれが本当なのか確認してみようと思いました
小杉さんは、国勢調査を参考になさったということで国会図書館へ行き、国会図書館の職員さんを巻き込んで資料を棚いっぱいに広げてみましたが、どうやって76万人という数字を出したのかさっぱりわかりませんでした
書籍「ニ−ト」の数字を確認するのに、本に書かれているのと同じ「総務省統計局『労働力調査』」を私も見ました
(私が図書館で見た資料とネット上に公開されているものは、なぜだか微妙に違います)
「2003年第1四半期(1月〜3月平均)」と書籍「ニ−ト」には書いてあるので、私も平均を出してみると、15歳以上25歳未満の人口は約1500万人とその中の完全失業者は約72万人はほぼ一致しました(「第12表 年齢階級別完全失業者数及び完全失業率」参照)
就業者は573万人と書いてありますが、私が計算すると約578万人になってしまいます(「第4表 農林業・非農林業、従業上の地位、年齢階級別就業者数」参照)
失業者でも就業者でもない「非労働力」と呼ばれる人の数を書籍「ニ−ト」では失業者や就業者などを割り出して人口から引いて853万人としていますが、わざわざ計算しなくても非労働力人口は載っていて、そこで平均を計算すると852万人となり、1万人の差が出ました(「第2表 年齢階級別15歳以上人口、労働力人口及び非労働力人口 −男女計−」参照)
書籍「ニ−ト」ではその非労働力の853万人から学生や浪人の数を引いていて、その数は「文部科学省『2002年学校基本調査』」のものだと書かれています
労働力調査は2003年で、学校基本調査はどうして2002年なんだろうと疑問に思いながら、在学者数を出してみました
在学者数と言っても、改めて見ると学校の種類って結構あって、「中等教育学校」の数字が平成11年から出ていますが、そんな学校はじめて聞きましたし、聾学校や盲学校養護学校なども入れていいのか迷います
「ニ−ト」という本には「高校、大学など」としか書かれていないので、「学校基本調査」の中のどこの数字なのか、はっきりとはわかりません
同じ数字を出すのは無理だなと思いつつも計算してみると、書籍「ニ−ト」に書いてあった750万人に対し、私の計算では7,897,418人
私の出した数字というのは2003年のもので、高等学校、高等専門学校、短期大学、大学、専修学校、各種学校の在学者数を合計したものです
大学院。専攻科、別科は大学、短期大学、高等専門学校に含まれますが、通信教育を受けている人たちは入っていないと注意書きがあります
では、書籍「ニ−ト」に書かれているのと同じ2002年ならば、750万人になるのかと思いきや、8,003,965人でした
もっと私が悩んだのは「短大・大学への進学を希望している浪人生は、全国でおよそ14万人」という数字です
「学校基本調査」の中に「浪人」という文字は、私が見る限り見当たりませんでした
それで、「入学志願者数」というものが浪人に匹敵するのだろうかと「学部別 高校卒業年別 入学志願者数」を見ると、3,796,798人です
そのデ−タは平成11年3月以前高校卒の人から平成15年3月高校卒の人、それに外国の学校卒、専修学校高等課程卒、その他(検定等)の人も入っています
もうひとつ別のデ−タもありました
「卒業年次別大学(学部)・短期大学(本科)への入学志願者数」といもので、これには平成13年3月以前卒業者から平成15年3月卒業者まで載っていてその数は854,203人です
この2つのどちらのデ−タには、養護学校などを卒業した人の数字は入れていないので、それを足すともっと大きな数字になります
「浪人は14万人」という数字を出すために、どのデ−タを使い、どう計算したのか書籍「ニ−ト」には書かれていないので、ここで私の作業はストップせざるを得ませんでした
結局のところ、書籍「ニ−ト」では「働くことにかかわっていない若者から、在学と浪人を引いてみると、その数は89万人(=853-750-14<万人>)になる。この89万人は、働こうとして仕事を探しているわけでもなく、かといって学校に通っているわけでも、進学しようとしているわけでもない。」と書かれています
私が計算したのは、853万人ではなく852万人で、在学者数は750万人ではなく789万人
14万人という浪人の数は、何浪までのことだか書籍「ニ−ト」には書かれていないのでどうやって出されたのかわかりません
この89万人という数字を出すためにどうやって計算したのか、何を見たのか、もっと詳しく書いて欲しいです
さらに、
「就職にも進学にも希望を失っている職業の若者が、今、日本に40万人もいるのだ。」
と書籍「ニ−ト」は断言しています
その計算として、先ず「働くことを希望していない『就業非希望者』」を割り出すのに、前出の853万人(非労働力)から就業希望者の129万人と内定者の91万人を引いて633万人としているのですが、この「就業希望者」と「内定者」の数はどこから持ってきたのか明記されていません
「労働力調査」には、15歳から24歳と限定した数字は載っていないので、何らかの方法で計算されたのか、別の資料を参考になさったのでしょうか
「在学中のため就職を希望しない25歳未満の人々は、579万人」という579万人も何の資料から持ち出した数字なのかわからないまま、就業非希望者(633万人)から在学中のため就職を希望しない25歳未満579万人と浪人14万人が引かれて40万人という数が出されています
この40万人という就職にも進学にも希望を失った無業の若者の数字を出すために、元ネタがどこから来ているのかはっきり書かれていないために、私はピンと来ません
しかしながら、この「ニ−ト」という本に載っているグラフは、内閣府の経済社会総合研究所のHPの中にも掲載されています
「内閣府って何さ?経済社会総合研究所ってなんじゃ?」とHPをたどると、
「経済社会総合研究所(Economic and Social Research Institute : 以下ESRIという)は、中央省庁再編の一環として従来の経済企画庁経済研究所の機能、規模を拡充して2001年1月に発足した内閣府の機関です。
内閣府は重要課題を担当する「知恵の場」ですが、ESRIは内閣府のシンクタンクとして理論と政策の橋渡しを担う、いわば「知恵の場」の中の「知恵の場」といえます。
ESRIの主要な任務として、経済活動、経済政策、社会活動等に関わる理論及び実証研究を行い、政策研究機関としての機能強化を図るとともに、内部部局と連携し、経済財政諮問会議の審議に資する研究や、政策研究を担う人材育成・研修等に取り組んでいます。また同時に、GDP(国内総生産)統計に代表される国民経済計算体系(SNA : System of National Accounts)の推計作業を行い、四半期毎のGDP速報(QE : Quarterly Estimates)及び年度毎の確報を公表、さらには、DI(景気動向指数)等の景気動向統計の作成を行い、公表しています。」
って書いてあります
「知恵の場」の中の「知恵の場」で、実証研究を行う機関が、人の書いたものをそのままペタって貼っちゃっていいんですか?
どうも数字の上では、ニ−トと呼ばれる人たちがどういう人なのか、今ひとつはっきりわからない私は、理論の面から見ることにしました
前出の小杉礼子さんは、ニ−トを4つに分類なさっています(特定非営利活動法人「育て上げネット」さんのHPより引用)
Ⅰヤンキー型
反社会的で享楽的。「今が楽しければいい」というタイプ
Ⅱひきこもり型
社会との関係を築けず、こもってしまうタイプ
Ⅲ立ちすくみ型
就職を前に考え込んでしまい、行き詰ってしまうタイプ
Ⅳつまずき型
いったんは就職したものの早々に辞め、自信を喪失したタイプ
また小杉さんは、50人ほどのニ−トやそれに近い人などにインタビュ−調査をして、その結果を基に4つのキ−ワ−ドを挙げています(「職業安定広報 2005.1.21」より引用)
そのキ−ワ−ドとは「刹那を生きる」「つながりを失う」「立ちすくむ」「自信を失う」で、その他に「機会を待つ」というのも付け加えていらっしゃいます
これらのキ−ワ−ドと上記の4つの型がつながっているのかと思われますが、「ヤンキ−」と「刹那」に正直「プププ」と笑ってしまう私です
小杉さんは、この「刹那を生きる」というタイプについて、
「学業不振や遅刻が非常に多く、大抵が高校中退していたり、就職活動を一切しないで、学校を卒業してしまっているタイプなんですね。」
と語っています
「ニ−トなヤンキ−ってチンピラのことか?」とふと考え、私の知っている無職の人を称する昔から使われている言葉を考えてみました
家事手伝い、すねかじり、プ−太郎、チンピラ、ひも、パチプロ、遊び人、流浪、ホ−ムレス
他に何かありますか?
こういう人たちとひきこもりの人が同じニ−トという言葉で括られています
書籍「ニ−ト」の著者のひとりである玄田有史さんはニ−トについて、「働く意味を考えすぎたために、自分に自信が持てなくなったり、人付き合いが苦しく感じられるなど、いろいろな理由で『働けない若者』と考えています。ニ−ト自身が本当は働きたいと思っているのだから、一歩を踏み出すために、『大人のおせっかい』が必要」と話しています(職業安定広報 2005.1.21より)
ニ−トの中にはパラサイトと呼ばれるように、誰かにすがって生活し、「お金に困らないから働かなくていいんだ」と全く働く必要のない人も含まれているような気がします
その深刻さにはレベルがあり、苦悩も種類も様々なのにも拘わらず、ニ−トと言葉の中に一緒くたにしてしまって、その対策をどうしようかと社会が動き始めています
「ニ−トの対策を」と一口に言っても、何に対して対策を練るのでしょう
いろいろなケ−スがあるニ−トという人たちのどのケ−スをもカバ−できる対策を打ち出すことができるのでしょうか
ニ−トという言葉をイギリスから日本に持ち込んだであろう玄田有史さんはじめ、小杉礼子さんや他のニ−トに詳しい方にお会いしたいと思います
それぞれの方が言うニ−トの問題や対策は、多種多様な状況の中のいったい誰のことなのか、先ずそこを知らなければ前へは進めません
アポイントを取ります
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